Home / 恋愛 / 君を救えるなら、僕は / 十一章 「思い出される」

Share

十一章 「思い出される」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-06-11 03:55:30

 彼女がなかなか見つからないことで、また過去のあの日のことが思い出された。

 今はそれどころじゃないとわかっているけど、『心』は時に暴走する。

 あの日とは、ある人が涙を流すのを見て、僕が救えなかった日のことだ。

 あの日も、今のこの状況と同じような日だった。

 なんの偶然かわからないけど、あの人も突然僕の前からいなくなった。

 もちろん、僕はその時もすぐに探した。

 あの日と今に、重なる部分が増えてきて、体がブルっと震えてきた。

 あの人とは、彼女と付き合う前に僕が付き合っていた|吉川 美琴《よしかわ みこと》という女性だ。

 美琴は、僕と同じ年の16歳だった。僕と美琴は同じ学校のクラスメイトで、普通の出会い方をし、普通に恋に落ちた。

 それはどこにでもありそうな恋だったけど、恋に特別さは必要ないと思う。僕だって運命的な出会いに憧れはある。でも、それは本当に奇跡のなすもので、そんなに簡単に奇跡は起きないこともわかっている。それに出会い方は普通でも、その後をキラキラしたものにすることはきっとできるから。大切なのは二人の思いが重なっていることだ。僕たちは確かに惹かれあっていた。

 でも、その日は突然訪れた。

 その日の午前中、美琴と普通に話をしていた。

 僕はいつものように美琴とお話をしながら一緒に登校し、学校についても休み時間には楽しく話していた。美琴も笑っていた。

 でも、突然いなくなった。

 それは昼休みに、「一緒にお昼ごはんを食べよう」と美琴に声をかけに行こうとした時だった。

 美琴の席に目を向けると、美琴の姿はなかった。

 美琴の仲のいい女友達に、「美琴は、どこに行ったか知ってる?」と聞いたけど、誰一人知ってる人はいなかった。

 少しどこかに行ってるだけかもしれない。実際美琴の友達も慌ててる様子は全くなかった。

 でも、僕は違和感を感じた。

 だって、誰も知らずに消えるなんて明らかにおかしいから。

 だから、急いで美琴を探すことにした。

 高校生の行動範囲なんて限られているのに、僕はなかなか美琴を見つけられなかった。

 汗を流しながら校内を探し回った。この汗は走っているためか、冷や汗なのかわからなかった。ただ、汗を拭くこともせず僕はひたすら走り回った。

 その間に何度かスマホがバイブ音を鳴らしていたけど、僕は今それどころではなかったから確認しなかった。

 
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 君を救えるなら、僕は   二十三章 「二人の問題」

    「華菜は、いつも一人で抱え込みすぎだよ。いや、他の人なら、一般的に一人で抱え込まないことまでも、華菜は抱え込むところがある」 彼女は、じっと話を聞いている。「そして今華菜が悩んでいることは、一人で抱えるにはあまりにも大きすぎることだよ」「だからって、どうして悠希の問題でもあると言えるの?」 彼女の唇は少し震えていた。「華菜がさっき言ってたよね? 『もう後には戻れない』って。あれは言い換えれば、『助けて』という言葉だと思えた。少なくとも、今僕はそう感じている。助けを求められたなら、もう僕はこの問題の関係者だよね」「何を言ってるの?」 彼女は、かなり困惑している。 でも、僕は話すことをやめなかった。彼女を安心させるためなら僕は何度でも言葉をかける。 『言葉』は、それだけでは小さな力しかないかもしれない。 でも、他のことと組み合わせることで、力を大きくできる可能性があるかもしれない。「僕は、華菜が苦しんでいるのをもうほっておけない」「悠希。優しすぎるよ」 彼女の言葉から『苦しさ』があふれてきた。 彼女は誰かに優しくされることも怖いかもしれない。 でもそれを怖がるのは、彼女も優しい証拠でもあると僕は感じた。 相手のことを思っていなければ、きっとなんとも思わない。だって相手が自分のためにどんな感情になっても、自分には関係ないことなのだから。 でも、彼女の優しさは、他人に大きく傾いている。いや、たぶん他人しか向いていない。いつも相手のことを思い考えている。 少しでもその優しさが自分に向けばいいのにと僕は思った。優しさを自分に向けることは、おかしなことではない。 自分を一番知っているのは自分だ。感情が簡単なものではないことはわかっている。自分を褒めるのって意外と難しいのも知っている。 でも、だからこそ他人だけでなく、自分にも優しくしてほしいと僕は思う。「優しいのは、華菜だよ。自分が苦しいのに、今僕のことを気にしてくれてるのだから。僕もそばにいるんだから一緒に考えさせてよ。僕は、華菜を救うんだから」 彼女は、僕の目をちらっと見た。 今彼女は悩んでいるのだろう。 彼女の手を握りたいと、僕は強く思った。「問題解決法を今思いついた。解決法というよりは考え方に近いけど、誰かと比較したり常識などの社会のきまりのようなものに、自分の悩みを無理

  • 君を救えるなら、僕は   二十二章 「わかり合えないよ」

    「涙って、複雑だね」 彼女は、ゆっくりと顔を上げた。 今彼女は涙を流していた??「どういうこと??」「今、悠希の私を思うまっすぐな気持ちが嬉しくて涙が出た。涙を流した理由は、それがかなりの割合を占めてることは確かなことだよ。でも、実は私の心にずっと浮かんでいる別の感情があって、それも関係して『涙』という形で外にあふれたのだと思う。涙がもっと単純で、一つの感情だけで流れればいいのにね」 彼女の横顔は、大人っぽいけど寂しそうだ。 僕は子どもの頃から我慢して涙を流さないように生きてきたから、涙の仕組みはよくわからなかった。 「同じ体験をしないとわからないこともある」と彼女はさっき言っていた。その言葉が突然ずしりとのしかかってきた。 彼女のために涙はどうして流れるかすぐに考えてみた。同じじゃなくても、わかることができると彼女に伝えたい。 人はどうして、どんな時に、涙を流すのだろうか? 多くの場合、ある言葉や行動を受けて、何かしらの大きな感情が自分の中で生まれたからではないだろうか。 つまりは、感情の放出だ。 それはずっとため込んでいたものもあれば、今の気持ちだけの時もあるだろう。 きっと涙とはあふれるもので、流している本人もその時はそんなに難しいことを考えていない気がした。  もちろん、『嘘泣き』などのようにわざと泣いている場合は、これらからは除外される。 だからだろう。涙を流しながらも、涙について彼女が冷静に分析をしている姿に、僕はさっき寂しさを感じたのだろう。 涙について深く考えて悩む人もたぶん多くはないだろう。 そして何より涙を流している時ぐらいは、誰かに甘えて頼っていいのにと僕は思う。人間はそんなに強い生き物ではないのだから。 でも、彼女はそれを一切しない。いつも一人で何でも解決しようとする。一人で平気なふりをする。 彼女が平気なふりをしていることに、僕はやっと今気づけた。本当は全然平気なんかじゃないのに、彼女は笑顔を見せる。 僕は、彼女を抱きしめた。「華菜をずっと苦しめている別の感情って何?」  僕は、彼女に聞いた。 彼女が自分から助けを求めないなら、僕が行動を起こせばいいだけだ。 先ほど伝えた僕の思いだけではまだどうにもできないものがあるなら、もっと彼女に関われば変えられるかもしれない。 普段はしない行動も、す

  • 君を救えるなら、僕は   二十一章 「僕が君を救いたい理由」

    「まずは、僕の覚悟を伝えるね」 彼女を救いたい理由を言う前に、僕の覚悟を先に伝えた方が納得してもらえるか思ったからだ。 彼女は、小さく頷いてくれた。 今僕の胸は、恋のドキドキとは違う意味で音を激しく鳴らしている。「僕の覚悟は、どんな否定も弱い自分も完全に覆すまで決して諦めないことだよ。この思いは、決して中途半端な思いじゃない。僕は、何があっても折れないよ」「えっ!?」「今、そして未来を生きていく上で華菜を失う以上に辛いことは、僕にはない。やっとそのことを堂々と伝えられるようになった。華菜が辛い顔をしてると、僕も心が痛くなった。最初はなんでかわからなかった。人が悲しんでる顔を見るのが好きな人はなかなかいないだろうけど、この気持ちは、同情とかとは少し違った。それがやっと何かわかった。本気で思うからこそ相手の苦しみは、自分の苦しみでもあるんだね。僕も一緒に苦しませてほしい。そして、二人で前を向くための行動をしようよ。その苦しみに押しつぶされないだけの『愛』が僕にはある。華菜を守りたい。僕が笑顔にしたいと思うよ」 彼女はまだ驚いていたから、僕は少し戯けた。「僕って意外と根性があることを知ってた? 周りの人がなんと言おうと、華菜すらも『無理だよ』と言おうと、そんなの気にしない。障害の話もしてたけど、僕たちの間に乗り越えられない障害なんてないと僕は思ってる。だって僕たちには、確かな『信頼』があると思っているから。これまで一緒に過ごした月日がある。『障害』って、確かに大変なものもあるよ。でも、自分たちで『障害』と呼び、諦めているものもあるんじゃないかな。そして、どんな大きな障害も少しは抵抗できる気がする。さっき華菜が言ってたものに強いて名前をつけるなら、道に落ちているただの『石ころ』だよ。そんな小さなものは気にもならない。僕が、簡単に払い退けて覆すよ」 僕は、この時間が二人の関係をさらに深められることを祈りながら話す。「それに、僕にダメな部分があってそのために華菜を救えないのなら、何がなんでもそんな自分を変えるよ。華菜のために自分を変えることを嫌だとは思わない。全然大変でもじゃない。そんな大変さより、華菜の幸せを僕自身が奪うことの方がずっと苦しい。そのためなら、僕はいくらでも強くなるよ」「悠希、そこまで考えていてくれたのね」  彼女の表情が、少し柔らかく

  • 君を救えるなら、僕は   二十章 「そもそも違いすぎるよ」

     彼女は、はっきりとしない僕をキリッとにらんできた。 でも、彼女の表情から怒りはなぜか感じられなかった。「そもそも私と悠希は、違いすぎるよ」 否定されるとその物事だけでなく、僕自身を否定されたように感じる。 「しっかりしろ!」と自分自身に言葉を投げかける。僕は『言葉』の力をまだ信じているのだろうか。それとも他人には効果がなくても、辛い時僕は『言葉』に救われてきたから自分には使うのだろうか。「まず、私たちは性別が違うよね?」 彼女は、落ち着いた声でそう言った。「それはそうだね」「性別が違うこと。悠希はきっと『たったそれだけ?』と思うよね。でも性別が違うことで、結構ズレは出てくる。その違いで、悩むことや相手に求めることはかなり違うんだよ」 彼女は、僕の目を見つめた。「女性は、私と同じようにありのままの自分を全部受け入れてほしいと思う人が圧倒的に多い。聞いてほしいけど、助言を求めていないこともよくある。一方、男性はありのままの自分を見せたくないし、そもそも自分の弱さを認めたくないと思う人が多い。そこには、男性のプライドの高さが関係している。女性からしたら大したことないと思うことでも、男性は大切に思っているということもある。どちらも自分勝手と問題視しないことはできるよ。でも、悠希はそうはしたくないんでしょ? 性別によって、こんなにも違いがあることを悠希は知っていた?」「知らなかった」 彼女の言う通りで、僕はそこに気づくことができていなかった。 また、違うからいってそこを軽視したくないし、ちゃんと理解したいとも思っている。 それが相手を受け入れることだと思っているから。「まあ、知らないことは珍しくはないと思うよ。人は意外と物事について深く考えていないから。みんな考えているように装っているだけ。私は人生の中で考えることが何度もあったから知ってるだけだから。でも、これで違いがあるのがはっきりとわかったよね」 彼女は、どうしてそんなにせつない顔をして、違いをわざわざ教えてくれるのだろう。 まずわかったことは、考える機会がたくさんあったということは、それだけ彼女の人生は大変なことが多かったということだ。「さらに、もう一つ悠希に教えてあげるよ。悠希も多くの男性と同じようにプライドを持っているよ」「僕が、プライドを?」 それは、ついさっき自分自身

  • 君を救えるなら、僕は   十九章 「勝手に『一緒に』しないで」

    「私を、美琴や悠希と勝手に『一緒に』しないで!」 彼女は、もう一度はっきりと言った。 さらに、美琴だけじゃなく、『僕』も突然話に登場してきた。 なぜ今僕の名前が出てくるのだろう。 僕自身は、彼女のことに『僕』は何も関係ないと思っている。 そして、彼女の目は曇っていた。「一緒じゃない?」 僕は、彼女の言葉を繰り返した。 彼女の言葉の意味も、今なぜ彼女の目が曇ったのかも僕にはわからなかった。 でも、僕は「わからない」という言葉がいつもどうしても言えない。 相手は僕のために答えるのは面倒だろうと考えてしまう。だからその思いをわざわざ表現せず、話をなんとなく合わせるように僕はなっていった。 それでも会話は、それなりにできていたからいいかと思っていた。 きっと答えてもらえないだろうという自信のなさも関係しているのだろう。 『自信』というものはなかなか厄介もので、さまざまなことや物の邪魔をする。 それとも、僕にも『プライド』というものがあるのだろうか。 僕にも少しはプライドがある? そんなことを今まで考えたことなかったから、頭に浮かんだ言葉に驚いた。 『自信』か『プライド』かまたそれ以外のものか僕にはすぐにわからなかった。 自分のことでさえこんなにわからないなんて本当に僕はおかしい。 彼女のことを考えていくうちに、僕自身が受け身なままだと人を救うことはできないとわかってきた。それなのに、すぐに変わることを僕はできていない。 これじゃあダメだ。もっと努力をしなきゃ。その方法はわからないけど、僕は自分の足りないところを見つけると早く補いたいといつも思う。 まずは、彼女の話に集中することにした。「確かに美琴は、私のせいで苦しんでいた。悠希も今もきっと苦しんでいる。その点では、私も、美琴と悠希と同じカテゴリーだよ。でも、同じことはたったそれだけだよ? 私と美琴は全く違う人で、悠希に関しては性別すら違う。何に苦しんでいるかは全く違うのに、それを一括りするのは少し強引すぎない?」「僕はそんな、」「そんなつもりじゃない? それは悠希の気持ちだよね。私にそう伝わってしまったなら、それはそういうことなんだよ」 彼女は僕の言葉を先回りして言った。その言葉は僕の言いたい言葉そのものだった。どうして僕が言おうとしたことが彼女にはわかるのだろうか。 

  • 君を救えるなら、僕は   十八章 「過去編② 過去がつながる」

     美琴がいなくなった屋上で、僕はふとさっきスマホがずっと通知を知らせていたということを思い出した。 思い出したのは、きっと僕が無意識的に現実から目を背けたかったからだと思う。 美琴が死んだことを、僕は受け入れられなかった。 スマホの画面を押すと、たくさんのメッセージと着信が表示された。 僕は、それを一つずつゆっくりと確認していった。 こんなに通知がきていることは、初めてのことだった。「悠希、今どこにいる?」「悠希に会いたいな」「怖いよ」 メッセージの中には、美琴がいた。 でも、その美琴からはいつもの元気さや明るさは感じられなかった。 不安で苦しんでいる美琴が、僕を探している。 着信のすべてに留守電が残されていて、再生すると今はもう聞けるはずのない声が聞こえてきた。 それは、さっきまで目の前にいた美琴の声だった。 まさかもう一度美琴の声が聞けるとは思ってもいなかったので、僕はじっくりと耳を傾けた。 メッセージとは違う内容のことを話していた。でも、伝えようとしていることは同じだった。 僕はスマホから美琴が現れるはずがないとわかっているのに、聞きながらいつの間にかスマホの先に手を伸ばしていた。 声は聞けるのに、もう美琴の笑顔を見ることができないなんて残酷すぎる。 メッセージも着信も、すべて美琴からのものだった。 しかも、それらは美琴の姿が突然消えてから、見つかるまでの間に送られたものだった。 美琴はこんなにも僕に助けを求めていたのに、僕はそれに気づくことができなかった。 ただ必死に探していた。見つけることができれば、何かできると思っていた。それが最優先事項だと疑いもしなかった。 でも、現実は彼女と対面した僕は、彼女を救うことはできなかった。 何が最優先事項だと思った。 救うどころか、僕は間違いを犯したのだから。 人間は間違いを犯す生き物だとよく言われるけど、犯してはいけない間違いというものがある。間違えてはいけない判断というものがある。「僕が代わりに死ねなかったのかな。彼女の苦しみだけを背負っていけなかったのかな」 そう思わずにはいられなかった。 僕は、スマホの電源を切った。 今は誰とも話したくなかったから。 そもそも僕が頼られていたなんて今初めて知った。どうしてダメな部分が多い僕を美琴は頼ってくれていたのだろ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status